僕は「農業」が好きなわけではない。
よく「農業がしたい」とか「農業が好き」といった表現を見かけるが、かなり広義的だなぁと思う。
親のあとを継ぐ農業もあれば、補助金目当ての農業もあるし、植物工場なんてのも農業だ。
僕がやっているのはそのいずれでもない。
だから「好きだからやれるのね」的に言われることも少なくないが、その都度違和感を覚えている。
もっと言えばイチゴやスイカが好きだからやっているわけでもない。それだけでは夢中になれないから続かないと思う。
自ら仮説を立て、それを検証するために試行錯誤を繰り返して、「作品」をリリースする。
そこで得られたフィードバックを元に仮説を立て直し、翌シーズンの作品づくりに没頭しているだけだ。
さらに作品をリリースするためには、パッケージ、リーフレット、広告などなど…、プロのデザイナーやカメラマンに手掛けてもらうことも多く、届け方つまりマーケティングにおいてもブランドイメージを際立たせることが求められるため、市場出荷やファーマーズマーケットに納品するのとは一線を画するものになる。
おそらく多くの方がイメージする「農業」像とはかなりかけ離れていると思う。
そもそもこの町で新規就農して、経営を成り立たせることの答えなど未だに誰も(JAも県も市も)持ち合わせていない。
商品としてのイチゴやスイカの作り方の答えはどこにでもあるが、小さな農園の「作品」をブランド化させ価値を創造し、経営を安定させる答えはどこにもない。
だがありがたいことに、そんな変わった農園を応援してくれる人達が僅かながらでも存在する。
孤軍奮闘する僕達の支えでもあり、プレッシャーでもある。
期待に応えたいし、結果で返したいと思っている。
とんでもない道程を、呆れるほど遠回りしながら、フラフラになって走り続ける僕達が見たいのは、この町から放つ「作品」によって、見せかけの「農業」を打破し、畑をキャンバスにして夢を描く人が現れる景色に他ならない。
僕はあの日、土のついた鎌でおじいちゃんが切ってくれたスイカの味は忘れてしまったが、その光景だけは鮮明に覚えている。
ただただ消費されてしまって記憶に残らないモノに、たいした価値はない。それは商品に過ぎない。
僕達の想いに共感して、応援してくれる人が一人でも増えることを祈って、今日も作品づくりに没頭しようと思う。
風農園 代表 田上 堅一